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5. 【監査実務|公認会計士解説】金融庁検査・JICPA品質管理レビューから学ぶ引当金監査|なぜ「検討不十分」と指摘されるのか?

資格取得

金融庁検査やJICPA品質管理レビューで指摘されるのは、「何も監査手続をしていないケース」だけではありません。

資料を入手し、質問し、再計算もしている。それでも「検討不十分」と評価されることがあります。なぜでしょうか。

この記事は監査法人のジュニアスタッフ向け研修を想定し、公認会計士が監査実務の視点から整理しています。
実際の監査では、所属する監査法人の監査マニュアル、監査ツール、被監査会社の業種・会計方針、最新の会計基準・監査基準等を確認してください。
指摘事例から学ぶ最大のポイント
監査手続を実施した事実よりも、識別したリスクに対して十分かつ適切な監査証拠を入手し、重要な判断を調書に残したかが重要。
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金融庁検査では「貸倒引当金の見積方法」そのものが指摘されている

公認会計士・監査審査会の公表資料では、会計上の見積りの監査に関する主な不備として、債権評価について次の趣旨の事例が掲載されています。

  • 貸倒引当金の見積方法の妥当性を検討していない
  • 貸付先の事業計画の合理性の検討が不十分

会社の計算を再計算するだけでは、その計算方法・前提そのものが妥当かという監査目的を達成できない場合があります。

「資料を入手した」と「監査証拠を入手した」は同じではない

資料 ありがちな対応 一歩深い監査
事業計画 入手・保存 売上、粗利、資金繰り等の重要仮定を検証
貸倒計算表 再計算 見積方法・債権区分・母集団まで検討
経営者説明 質問結果を記録 説明を他の証拠と照合
前年調書 数値だけ更新 当期の環境変化・仮定変更を再評価

JICPA品質管理レビュー事例から見る「見積り」の視点

JICPAが公表する品質管理レビュー事例解説集でも、会計上の見積りに関連して、見積りに使用する仮定やデータ、見積りの不確実性、関連する注記等をどう検討するかが重要なテーマになっています。

監査人は経営者資料を受け入れるだけでなく、重要な仮定・データを識別し、適合性や信頼性を評価し、必要に応じて外部情報や過年度実績との整合を確認する必要があります。

指摘パターン① 見積方法の妥当性を検討していない

会社が長年同じ貸倒実績率を使っていても、取引先構成、信用環境、貸倒実績、回収条件などが変化すれば前年の方法が当期も合理的とは限りません。

指摘パターン② 事業計画を批判的に検討していない

・過年度計画と実績の乖離
・当期直近実績との整合
・売上成長率の根拠
・主要取引先との契約
・利益改善策の具体性
・資金繰りと返済予定の整合
・外部市場環境との整合

過去に毎年計画未達が続いているのに、当期も同じ成長率を無修正で採用している場合には、経営者の楽観的な偏向の可能性も検討対象になります。

指摘パターン③ 矛盾する監査証拠を放置している

会社は「業績は回復する」と説明している一方、直近実績は計画未達。会社は「全額回収可能」と説明する一方、返済は半年延滞。こうした矛盾を識別した場合、それをどう評価し、結論に反映したかを調書に残します。

指摘パターン④ 「見積りの不確実性」を考えていない

貸倒引当金なら、売上成長率、回収時期、担保処分価額などが変われば見積額も変わります。重要な見積りでは、必要に応じて感応度を検討し、「どの程度仮定が変わると重要な虚偽表示になるのか」を理解することが有用です。

指摘パターン⑤ 調書上、何を判断したのか分からない

調書に残したいもの
・識別したリスク
・会社の見積プロセス
・重要な仮定とデータ
・実施した監査手続
・入手した証拠
・反証情報
・重要な判断
・最終結論

ジュニア研修で使える「指摘される調書」演習

貸倒引当金
会社作成計算表を入手し再計算した結果、計算に誤りなし。A社向け貸付金について経理部長へ質問したところ、来期以降業績回復予定であり全額回収可能とのことであった。以上から貸倒引当金は妥当と判断した。

不足し得る事項は、A社の債権区分、見積方法の妥当性、事業計画の重要仮定、過去の計画達成状況、直近実績、返済スケジュール、期末後返済、矛盾情報などです。

「検査・レビュー対応のための監査」にしない

指摘事例を学ぶ目的は、指摘されない調書を形式的に作ることではありません。指摘事例は、監査基準が現場で何を求めているのかを具体的に理解する教材です。

研修講師として最後に伝えたいこと

監査調書の厚さではなく、監査人の思考の深さが重要。

ジュニア段階から、会社の説明や前年調書を「正解」として扱わず、なぜ?何を根拠に?反対の証拠は?と考える癖をつけることが重要です。

まとめ

①方法そのものを検討していない
②重要な仮定を検討していない
③データの信頼性を確認していない
④矛盾情報を評価していない
⑤不確実性を十分考慮していない
⑥重要な判断が調書から読めない

参考資料

※監査基準報告書540については2026年7月に改正公開草案も公表されています。実務利用時は、JICPAが公表する最新の最終版・適用時期を確認してください。