良い監査調書は、たくさん資料が添付されている調書ではありません。
会計上の見積りの監査では、「なぜこのリスクを識別したのか」「なぜこの手続を実施したのか」「どの証拠をどう評価して結論に至ったのか」が第三者に追えることが重要です。
実際の監査では、所属する監査法人の監査マニュアル、監査ツール、被監査会社の業種・会計方針、最新の会計基準・監査基準等を確認してください。
リスク評価、監査手続、監査証拠、重要な判断、結論がバラバラではなく、一本のストーリーとしてつながっていること。
監基報230が求める調書の基本
監査基準報告書230では、以前その監査に関与していない経験豊富な監査人が、少なくとも次を理解できるように監査調書を作成することが求められています。
- 実施した監査手続の種類・時期・範囲
- 監査手続の結果と入手した監査証拠
- 重要な事項、その結論、重要な職業的判断
つまり調書は「やったことリスト」ではなく、監査判断の記録です。
監基報540は見積り調書に特有の要求を置いている
監基報540では、企業・内部統制の理解、リスクと対応手続の関連、見積りの不確実性への対応、経営者の偏向の兆候、合理性・虚偽表示の判断における重要な判断などを監査調書へ記載することが求められています。
おすすめの「8ブロック調書」
| ブロック | 書く内容 |
|---|---|
| ①会計処理 | 基準、会社方針、認識・測定方法 |
| ②プロセス理解 | 誰が、どの資料で、いつ見積るか、統制 |
| ③リスク評価 | 不確実性、主観性、複雑性、重要な仮定 |
| ④見積手法 | 会社の方法、その妥当性と前年からの変更 |
| ⑤仮定 | 重要な仮定と合理性、代替仮定、感応度 |
| ⑥データ | 基礎データの出所、正確性、完全性、信頼性 |
| ⑦監査証拠 | 実施手続、結果、裏付け・反証証拠 |
| ⑧結論 | 合理性、虚偽表示、修正要否、開示 |
①会計処理:会社の見積りロジックを説明できるか
貸倒引当金なら「一般債権は○年実績率、特定債権は個別回収可能性」、賞与引当金なら「期末在籍者×基準給与×支給月数×対象期間割合」など、会社のロジックを最初に整理します。
②リスク評価:「何を間違える可能性があるか」を具体化する
・事業計画の売上見込が楽観的で回収可能額が過大となるリスク
・担保評価額が古く、回収見込額が過大となるリスク
賞与引当金なら「人員データの欠落」「支給月数の未反映」「対象期間割合の誤り」などへ落とします。
③見積手法・仮定・データを分解する
| 要素 | 調書に書く質問 |
|---|---|
| 見積手法 | なぜこの方法か。会計基準に適合しているか。 |
| 仮定 | 金額に最も影響する仮定は何か。合理性はどう裏付けたか。 |
| データ | どこから抽出したか。完全・正確であることをどう確認したか。 |
④「会社の主張を支持する証拠」だけ集めない
会社が売上回復を前提に貸倒引当金を算定する一方、直近月次の売上が計画未達なら、その情報を無視してはいけません。監基報230でも、重要な結論形成の過程で矛盾する情報を識別した場合、その対応を文書化することが求められています。
反証情報を識別し、それでもなぜ会社見積りが合理的なのか、または修正が必要なのかを説明できます。
⑤「質問した」で終わらせない
「経理部長へ質問し、合理的との回答を得た」だけでは、重要な仮定を裏付ける証拠として十分とは限りません。契約、実績、外部情報、期末後の状況、取締役会資料などとの整合を検討します。
⑥結論は監査目的に答える
・見積手法は適用会計基準に照らし適切
・重要な仮定は監査証拠と整合
・使用データの正確性・完全性を検証
・反証情報を考慮しても見積額は合理的範囲内
・関連注記に重要な虚偽表示なし
貸倒引当金の調書イメージ
リスク:貸付先A社の事業計画が楽観的で、回収可能額が過大となり貸倒引当金が過少となるリスク。
手続:主要仮定である売上成長率を過年度予算達成率、直近月次実績、主要契約、外部市場データと比較。資金繰り表の返済額を再計算し、期末後返済を確認。
結果:売上は計画比△5%だが主要契約の更新を確認。売上を10%減少させた感応度でも期中返済額を確保可能。
結論:反証情報を含めて評価した結果、会社の回収可能額は合理的範囲内と判断。
研修で使えるレビュー演習
不足し得るのは、債権区分、見積手法、重要な仮定、データの信頼性、客観証拠、反証情報、期末後実績、リスクと手続の関連などです。

